朝から大騒動だった。
このまま、ゆったりしていて、いいのだろうか?
仕事をしなきゃいけないという思いにかられるのは、この仕事を始めてからずっとだった。
しかし、ここ半年はゆったりと自分らしく生きるというのが、私の中の大きなテーマになってる。
特に仕事がない時は、最近はゆっくり休むようにしていたのだけれど、そういう日が続くと、やはり、ゆったりしていて大丈夫か? と言う気持ちがもたげてくる。
こんなときに、良い提案というか、合の手を差し出してくれるのが、妻である。
友達の結婚祝いを買いたいから車で駅まで乗せてってくれる? 帰りはバスで帰るから、と。
そう妻は言ったけれども、彼女を待っている間にカフェで本でも読んでいようかと、そういう過ごし方もたまには良いかと、ふと私は思った。
そうして、駅へと出かけることになり、駅地下の駐車場に車を停めて、妻は買い物へ、私はふらふらとどこのカフェが良いかと気ままに歩き始めた。
結局たどり着いたのは駅ビルの中にある、とあるカフェ。
そこで、今朝から読み始めた小説を読もうかと思ったけれど、なんとなく音声入力をする方へ意識が向いた。
最近は、原稿を書くときや文章を書き残したいときに、iPhoneに音声で入力していく。
今までは、キーボードを叩いて文章を入力していくだけだったが、音声入力機能が非常に性能が良くなっていることを知り、それ以来その機能の恩恵にあずかっている。
周りに聞こえるか聞こえないか位の音声で、カフェの片隅で音声入力をしていた。
そして、原稿の内容が深まっていった頃に、妻からの連絡。
「買い物が終わったからそっちに行くよ」
「了解だよ」
こんな会話をLINEでやりとりして、私はまたすぐに音声入力に没頭した。
飲んでいたミルクティーのカップを見ると、 まだ3分の1以上残っている。
また一方で、原稿の内容も佳境に入っている。頭の片隅でそんなことを思いながら、音声入力をしていると、
「もう着いたよ」とLINEが入った。
ほんの少し、カフェの中まで入ってきてくれたらと、思っていたのだが、このまま一緒にカフェで時間を過ごすのは、今日の流れからすると違う。そんなこともわかっていたのだが、何となく時間が過ぎてしまい、そのうちに電話が来て
「なんで出てこないの?」
彼女の気持ちが伝わってくる位の音声を聞いて、私は残っているミルクティーを一気に飲み干し、席を立つことにした。
この後そのカフェを出てから、軽い一悶着があったわけだが(笑)、よくよく考えてみれば、先にカフェを出ていてもよかったかもしれない。妻は、わざわざ駐車場のある向こうのビルから、駅ビルのカフェまで来てくれたのだ。
しかし、私の内側では、カフェの中まで入ってきてくれたらという小さな淡い期待も抱いていた。
私は自分のとった行動を客観的に捉えてみて、こんなことをふと思った。
世の男性は、なんでカフェの中に入ってきてくれないんだ、と
自分の気持ちを押し付けてしまう人もいるのかもしれない、と……。
そんなことを思いながら、その時に音声入力していた内容が、いま自分に起きていることに似通っていると気付き、面白みを感じた。
その時私は、私自身の子供の頃に、母親の愛情を欲していた体験談を入力していた。
その母の愛情が足りないと、男性というものはもしかしたら、女性に自分の望むように行動してほしいと強く思うようになるのかもしれない。そんなことも、ふと思ったのだ。
お母さんに甘えられなかった分、女性に甘えてしまう。
この幻想が、もしかしたら今の世の中には、結構はびこっているのかもしれない、そんなことを自分と重ねて捉えていた。
こんな物語を捉えつつ、私は車の中で妻と仲直り。
そして、1週間分の食料を買いに2人のお気に入りのスーパーへと出かけて行くのであった。
2019年11月20日