子どもの頃から歌うことが苦手だった私の人生の物語。2024年7月より毎週月、木曜日に次の話を配信。第1話は、こちら。
第17話 現象化するトラウマ
この「歌の翼に」という曲は、1800年代に書かれたようだ。メンデルスゾーンは現在のドイツにあたるプロイセンで活躍した作曲家で、弾けば弾くほど私は、この曲に引き込まれていった。
そして、曲の全体を通して弾けるようになったころ、主旋律の部分に自分で詩をつけてみたいと思うようになった。
音符の下に言葉を書き込んでみようかとペンを持つと、自分の内側からスラスラと言葉が出てきて、ほんの10分くらいで詩が完成した。
声をあげてごらん ゆくえはばまず
たとえたおれても あなたならできる
新しい歌がある 歌に秘めたもの
浮き上がる声には わたしの音符
てれず歌おう 今だけに
歌を越えていく あなたの心
与えていけば つぼみが咲くよ
さあ めでて歌おうよ 声を上げて
大切な歌だから 今日の流れに
乗せて歌うよ 手を合わせて
たとえ空に向かう あなたの心
急に閉じれば 息が苦しくなるよ
今すぐ歌おう 羽(はね)をひらいて
でき上がった詩には、明らかに過去の自分の気持ちが乗っているように思えた。正確には、それは自分の内側にずっと持っていた、歌を通して伝えたい志(こころざし)であるように思えた。
しかし、この言葉の波長には、痛みみたいなものも含まれている。決してぬぐえなかった心の痛み。当時の必死さが伝わってくるかのようでもあったけれど、自然と現れてきてくれた言葉を大切にしていきたいと思った。
そして、なんとなく自分で書いた歌詞を口ずさみながら、発表会前の最後の仕上げに入っていたころ、ピアノを弾く指が動きにくくなってしまった。曲の途中で、手首と肘の間の上腕部が固くなるような感覚が現れて、非常に弾きづらくなってしまうのだ。
胸の中でも、なんとなくザワザワした感覚があった。最後の一週間だというのに、練習に身が入らなくなってしまい、私は呼吸法をくり返していった。
自分のハートに意識を向けながら呼吸を重ね、胸の内側が落ち着いてきたら、自分自身に問いかけていく。
「なんで指が動かないのか?」
「なんで腕が固いのか?」
呼吸をそのまま重ねていくと、少しずつ原因となるものを捉えることができた。
自分の内側に映しだされてきたのは、ディナーショーが開かれているような場所で、私がピアノ(その当時はオルガンかもしれない)で弾き語りをしている様子。もちろん周りには聴いている人がいて、そのディナーショーを楽しんでいる。私自身も弾き語りの演奏を楽しんでいるようだった。
場所は現在のドイツやイタリアのようで、当時の私はいくつかの場所へ移動し、自由にピアノを弾きながら歌を表現していた。
そして、おそらく場所はイタリア。決定的な出来事が起こった。いつものように演奏と歌を披露していると、一人の男性が私のすぐ横まで近づいてきて、私の演奏に否定的な思いを告げている……。
私はその言動に目もくれずに演奏を続けていた。すると、その男は怒り狂ったかのように、鍵盤に両手を思いっきりたたきつけ、私に暴言を吐き捨てた。
「お前のものは音楽じゃない!」と。
それ以来私は、人前でピアノの演奏をできなくなってしまった。鍵盤を通して立ち現れてきた不協和音は、衝撃があまりにも強く、私の全身に突き刺ささるかのように大きな影響を与えたのだ。
そして私は、傷心のうちに故郷のドイツへ帰っていった。
おそらく、過去世にてドイツで歌を歌っていたのは、このあとのことだったのだろう。ピアノを人前で弾けなくなってしまったから、歌のみで自分の思いを伝えようとしていたようだ。
点と点であったものが一つの線として一気につながっていくような感じでもあった。
以前、この過去世のことを捉えたときは、男性の罵声の強さまではわからなかった。しかし今回は、男性の怒りの波長が鍵盤を通した音に乗ったときの威力と、それによって、私がどれくらいのトラウマを負ったかを感じとれた。
指や腕の動きが悪くなり、ピアノを弾きづらくなってしまったのは、普段は捉えることが難しい、過去世でのトラウマが潜在意識から浮上してきたからだったのだ。
そう理解できた後にピアノを弾いてみると、腕の固さはおのずとなくなっていて、いつもと同じようにピアノが弾けるようになっていた。
身体に現れる症状は、本当に自分が何を欲しているかを教えてくれている。この症状はなぜ現れているのか? と問いかけていくと、時間はかかっても自然な形でその答えとなるものは、内側から照らし出されてくる。
これは、私がとくに大切にしている手法でもあり、身体に症状が現れたときは、なるべく呼吸法をしたうえで、自分自身に問いかけるようにしている。
当日の発表会は、あっという間にやってきた。場所は昨年と違って、自宅から車で40分ほどかかるホール。参加者の多くは小学生で、中高生となると人数はいっきに少なくなり、大人の参加者はほんの数人。
それでも、親御さんたちがたくさんいらっしゃるから、会場の席はほとんど大人で占められることになる。私は大人だけど、昨年と同じように、両親にはよかったら来てと、声をかけていた。
リハーサルの順番は、本番の順番とは逆になるよう決められていた。私の本番は最後のほうだから、リハーサルは逆に最初のほうだ。そのため、リハーサル後は本番までの時間がかなり空いてしまう。
しかし、これが不幸中の幸いとなった。会場に着くとリハーサルが始まっていて、先生の一人がピアノを弾いていた。その先生は、私がいつも習っている先生とは違う方で、発表会は、二人の先生の生徒たちによる共同の発表会みたいな形をとっていた。
先生自身も発表会でピアノを弾くことになっていたためリハーサルをしていたのだが、会場に入った瞬間、私の心はザワついた。
何に自分の内側が反応したのか、最初はわからなかった。そして、私の順番がやってきたときに事は起こった。
「それでは井上さん。時間は5分です。お願いします」先生はピアノの前に座っている私のところまで歩いてきてそう言うと、他に作業があるらしく、足早にその場から離れていった。
私の心の中はまだ落ち着いていない。楽譜をセットして、ひと呼吸おいてから弾き始めた。すると、なぜか途中で手が止まってしまう。弾き続けようとしても、自分の内側から浮き上がってくるものにさえぎられてしまい、手が止まってしまうのだ。
何が起こっているのか理解できないまま、他の部分を途中から弾くなどして、部分的な確認をしているかのようにふるまっていた。そんなことをしているうちに、あっという間に5分が経ってしまった。
先生が近寄ってきて、あまり聴けなかったのですが大丈夫でしたか? と言ってくれたけど、今の自分の状態を先生に打ち明けることはしなかった。
・・・・
全20話の物語。第18話の配信は8月29日(木)12:00です。
配信済み話は、こちら。
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